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阿津川辰海 最新刊『午後のチャイムが鳴るまでは』――“学校の昼休み”が舞台の愛すべき傑作学園ミステリ!

阿津川辰海 最新刊『午後のチャイムが鳴るまでは』――“学校の昼休み”が舞台の愛すべき傑作学園ミステリ!

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★書店員さんからも熱い感想が続々!

かけがえのなさとしょうもなさが入り混じるあの忘れえぬ日々がチアフルに描かれるオムニバスミステリです。面白いのでよんでください!
くまざわ書店営業推進部 飯田正人さん

電光石火にして快刀乱麻!謎と企みに満ちた青春群像劇に閃く、なんと太刀筋鮮やかな名推理。
ときわ書房本店 宇田川拓也さん

まって、まって…えっ?(ネタバレ防止のため略)
阿津川さんはいくつ引き出しを持っているのでしょう?
紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさん

昼休憩のたった65分で事件を解決する学園ミステリ……だけで終わると思うなよ。常に読者の想定のはるか上をゆく、阿津川辰海の真骨頂だ!
啓文社ゆめタウン呉店 三島政幸さん

ばかばかしくて大真面目、熱量高めな青春×ミステリー!こんなの大好きすぎるってば!
ホンフルエンサー 本間悠さん

いや、これはいい!すこぶるよかったです!!あぁあ、いいなぁ。青春に謎が存在するなんてうらやましすぎて泣けました。これを読んだら空に向かって叫びたくなりますね。無意味な何かを大声で!そんな気分です!
精文館書店中島新町店 久田かおりさん

阿津川さんは本格ミステリのイメージがあったので、今回のあまりの青春っぷりにめっちゃ驚かされました!!そこかしこに張り巡らされた伏線たちに最後の最後まで楽しく踊らされました!!
紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん

とにかく、高校生みんなが、この65分間にすべてをかけている感じがたまらない。そして何よりも、私は阿津川先生の描く天才が大好きです。彼らが全力で挑む昼休みの一戦に、読者も全力でトライしてほしい1冊です。
三省堂書店名古屋本店 本間菜月さん

これぞ青春!してましたね。ちょっとしたことでも、必死になって探求したりムキになったり。つい昔の自分を思い出したりしました。物語で引き出せてくれるってすごいです。
宮脇書店境港店 林雅子さん

リズミカルなのでどんどん読みたくなっちゃう。だけどしっかりミステリなので気を抜けない。すべてがとても楽しかった。阿津川さんの作風の幅に驚き尊敬!!
宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみさん

友達、恋愛、昼休み、放課後…傍から見れば些細な出来事にまで、バカバカしいほどの全力を注ぎ込ませたあの熱量の源は、「社会」という扉の前で徐々に体を慣らしてゆく高校生たちに、時間がかけてくれた魔法だったのかもしれない。学校・公共図書館の司書の皆さん、本と図書館への愛と感謝あふれる著者からの「あとがき」という名の贈り物にもぜひご注目を。
図書館流通センター仕入部 松村幹彦さん

最初から軽快に明るくて楽しい。あんなにラーメンに全力を注ぎこむ彼らが愛しくなりました(笑)端から、大人からみたら何にもたいしたことないミステリも阿津川先生にかかったらこんなすごさが感じられるんですね。
コメリ書房鈴鹿店 森田洋子さん arrow_upwardページトップへ

★刊行記念 著者インタビュー


無駄のように思えるものへの、過剰な情熱を描きたい

阿津川辰海が、初の学園ミステリを上梓した。『透明人間は密室に潜む』『紅蓮館の殺人』をはじめとした話題作を毎年発表しつつ、『阿津川辰海読書日記』で古今東西の小説をこの上なく熱く語り、本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞。ミステリへの愛をほとばしらせながら、読んで書く日々をおくる阿津川に、本作に込めた思いを聞いた。
聞き手・構成/若林 踏 撮影/国府田利光

◆東川さんは放課後。青崎さんは早朝。それなら――?

――『午後のチャイムが鳴るまでは』は、学園を舞台にした青春ミステリの連作短編集です。本作を書こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

阿津川:東川篤哉さんが2020年に『君に読ませたいミステリがあるんだ』(実業之日本社文庫)を刊行された際、実業之日本社の「Web ジェイ・ノベル」に掲載するエッセイの為に東川さんにお会いしました。このエッセイは『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』(光文社)に「東川先輩に会いに行こう!」という題名で収録されているのですが、この時に実業之日本社とご縁が出来たんです。
その後、編集者から「青春ミステリを書きませんか?」とご提案をいただいた時に、東川さんのお話を伺ったことを思い出しました。『放課後はミステリーとともに』『君に読ませたいミステリがあるんだ』などの東川さんの〈鯉ケ窪学園〉シリーズは、同じ学園を舞台に複数の風変わりな登場人物たちが探偵役を務め、謎を解くユーモアミステリです。ですから「せっかく実業之日本社で作品を書くのであれば〈鯉ケ窪学園〉シリーズにオマージュを捧げるつもりで、ユーモラスな学園ミステリの連作に挑戦してみよう」と思ったんです。

――本作は題名の通り、学校の昼休みがキーワードの一つになっています。

阿津川:学園生活の中でも昼休みにこだわったのは、青崎有吾さんの『早朝始発の殺風景』(集英社文庫)を読んで衝撃を受けたのが理由です。

――どのような点に衝撃を受けたのでしょうか?

阿津川:『早朝始発の殺風景』は青春の日常風景を切り取った連作ミステリ集で、ワンシチュエーションを使って会話劇の楽しさで読ませる点が評価された作品でした。もちろん巧みな会話劇も素晴らしかったのですが、私としてはもう一つ別の観点で感心したんです。それは表題作が朝の時間帯を選んで書かれていた点です。たいていの青春ミステリですと放課後の光景が描かれることが多いですよね。これは課外活動を題材に選んだ方が登場人物達の行動範囲が広まって、物語を書きやすいからです。しかし、青崎さんは朝の通学時間というシチュエーションを敢えて選んで青春ミステリを書きました。その点が衝撃的だったんです。しかも、朝であることにミステリ的な必然性もありました。
だから、自分が青春ミステリを書く際にも放課後以外の時間を選んで書こうと思ったのですが、「朝の通学時間は青崎さんが既に書いてしまっているから、もう書けないな」と(笑)。そこで、昼休みを題材にしたものを書いてみようと考えた次第です。

◆心に深く刺さる「ラーメン描写」を目指して

――本作は全5話が収録されています。各編の内容は連作を始める前から既に決めていたのでしょうか?

阿津川:いえ、企画段階では第3話までの素案は出来ていましたが、各話の具体的な内容までは決めていませんでした。3話以降の詳細を詰めていったのは、2話目の「いつになったら入稿完了?」を書き上げた頃でしょうか。今回の作品では連作集としての全体的な構想をまず決め、そのアウトラインに沿って各編を書いていく流れを取りました。

――収録されている5編はいずれも異なる味わいを持ったミステリになっていて、ジャンルの多彩な魅力が一冊で堪能できると思いました。

阿津川:各編の趣向をなるべく異なるものにしたいという思いは、特に2話目を仕上げた後から強くなっていました。というのも第1話・第2話の題名が、はやみねかおるさんの〈都会のトム&ソーヤ〉シリーズからのもじりであることに途中で気付いたんです。「自分でも知らない内に尊敬する作家さんからの影響は滲み出るものなのだな」と思うと同時に、「ならば、はやみねさんのように様々なバリエーションの青春ミステリを書いていこう」と思い至ったんです。

――第1話「RUN! ラーメン RUN!」は、昼休みを抜け出してラーメン屋に行こうと計画する生徒たちを描いた作品です。教師の目を盗んでラーメンを食べに行くことを“犯罪計画”と称して何とか遂行しようとするのが愉快です。

阿津川:物語の時間をすべて昼休みに設定しようと決めた時に、「学校の昼休みはたいてい外出禁止になっているのだから、こっそり学校を脱出しようとする生徒を描いてみようか。それも限りなく、くだらないことが良いな」と考えたんです。昼休みに限定して話を描くという縛りを設けたのは確かに高いハードルでしたが、逆に縛りがあった方が自分の場合は発想できることも多いのだと、改めて気付きました。

――謎解きとしての完成度はもちろん、本編ではラーメンを食べる描写にも気合が入っています。

阿津川:ラーメンの描写については平山夢明さんの『デブを捨てに』(文春文庫)に影響を受けたところが大きいですね。表題作は文字通り「デブを捨てに」車を走らせる男のロードノベルなんですが、そこに出てくるラーメンが悍(おぞ)ましいものなのに、さも美味しそうに見える文章で描かれているのが記憶に残っていて。ですから本編では「自分も心に深く刺さるようなラーメンの描写を目指すぞ!」という意気込みで書きました(笑)。

◆青春小説を書く以上、賭博小説に挑まねば

――第2話「いつになったら入稿完了?」では校内で起こった人間消失の謎が描かれています。

阿津川:第1話で学校の外に出る話を書いたので、第2話は校内に舞台を限定した話にしようと思い、消えた人間を探して建物内を行ったり来たりするプロットを書いてみました。1作ごとにメリハリを付けていこう、という事も本作で気を配っていたポイントです。

――第3話「賭博師は恋に舞う」ではさらに趣向が変わって、“消しゴムポーカー”に興じる学生たちを描いた賭博小説になっています。

阿津川:青春ミステリを書こうと決めた時点で、賭博小説の趣向に挑戦しようと考えていました。麻雀小説における不朽の名作である阿佐田哲也『麻雀放浪記』(角川文庫)の第1巻が「青春編」と銘打たれている通り、優れた賭博小説は優れた青春小説でもあると私は思っているんですよ。だから自分が青春小説を書く以上は賭博小説に挑まねば、という気持ちでした。



――作中で登場人物たちが行う“消しゴムポーカー”は、非常にユニークな遊びです。この発想はどこから来たのでしょうか?

阿津川:着想の出発点は、高校時代に同級生と遊んだ“紙将棋”です。友達が紙で将棋の駒を作って、休み時間によく対局していたんです。休み時間に皆で盛り上がっていたことが楽しい思い出として残っていて、「ああいう遊びに熱中する学生たちを描いてみよう」と思い付きました。
自分は麻雀が好きなので、最初は麻雀を題材に書こうかな、と思っていました。ただ、麻雀のルールを男子高校生のクラス全員が理解している設定には難があるため、麻雀をそのまま描くことは出来なかったんですね。「さて、どうしようか」と迷って色々な麻雀漫画を読み返していた時に、福本伸行さんの『天 天和通りの快男児』(竹書房)という漫画に出てくる「麻雀に似たルールを導入して、手札の読み合いを行うポーカー」の描写が目に止まったんです。伝説の雀士・赤木の強さとは何かを表現した1話分の短いエピソードなのですが。「そうか、これならば麻雀のようなゲームを高校生もプレイさせることが出来るぞ」と考えて、『天』をヒントにしつつ生み出したのが“消しゴムポーカー”だったんです。

――元々は麻雀小説を書きたかったんですね。

阿津川:そうです。手札を紙ではなく、消しゴムにしたのも麻雀牌と似た形状のものを描きたかったからです。ちなみにこの“消しゴムポーカー”、実際に自分で手作りして遊んでみました。(と言って、消しゴムが詰まった箱を取り出す)

――おお、これはすごい!

阿津川:もちろん一人ではプレイできないので担当編集を始め出版社の方々にも参加してもらいました。実物を使って遊びながら気づいたことを、執筆に活かしましたね。



◆暇つぶしじゃない。ただミステリが好きなんだ!

――相当なこだわりですね。こだわりと言えば、第4話「占いの館へおいで」ではハリイ・ケメルマンの短編「九マイルは遠すぎる」へのオマージュが捧げられていて、古典名作への愛着を作品内で表そうとする阿津川さんらしさが出ているな、と思いました。

阿津川:第4話については、意味不明な言葉から推理を広げていく「九マイル」パターンのミステリに、新味を加えることが出来たのではないかと自分では思っています。もちろんネタばらしになるのでこれ以上は言いませんが、謎解き小説ファンの方には是非ともその点に着目していただきたいです。

――最終話「過去からの挑戦」まで読み終えると、謎解き小説としての企みに感心すると同時に、青春群像劇としての個々のエピソードが心に焼き付いていると感じました。些細なことにも一生懸命だった時間が自分にもあったな、と振り返りたくなる小説です。

阿津川:私は高校時代からミステリを漁って読んでいたんですが、ある時その姿を見た同級生が「暇なの?」と声を掛けてきたんです。その後も似たようなことを言われることはありましたが、その度に私は「別に暇だからじゃない。自分は本当にミステリを読むのが好きで仕様がないから読んでいるんだよ!」と心の中で叫んでいました。
他人から見ればくだらないもの、馬鹿馬鹿しいものに情熱をかけることが青春であり、そのような瞬間を描くことが青春小説の役目であると思っています。本書を読んで、そのような思いを受け取っていただけると嬉しいです。

――今後の予定を教えていただけますでしょうか。

阿津川:講談社タイガの〈館四重奏〉シリーズの第三作『黄土館の殺人』を2023年内か来年の始めぐらいにはお届け出来ればと思っています。また、KADOKAWAの『小説 野性時代』で「バーニング・ダンサー」という長編連載を行っていますが、こちらも年内には連載を完結して来年には単行本化を目指しています。評論関連のお仕事では、引き続き光文社「ジャーロWEB」連載の読書日記を頑張って更新していく予定です。

――阿津川さんは『阿津川辰海読書日記』で第23回本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞されましたが、今後も小説と評論の両方を跨ぐ活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

(2023年7月 都内にて)

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★著者プロフィール

阿津川辰海

阿津川辰海(あつかわ・たつみ)
1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』でデビュー。以後発表した作品はそれぞれがミステリ・ランキングの上位を席巻。2020年、『透明人間は密室に潜む』で本格ミステリ・ベスト10第1位に輝く。その他の著書に、『星詠師の記憶』『紅蓮館の殺人』『蒼海館の殺人』『入れ子細工の夜』『録音された誘拐』がある。2023年、『阿津川辰海読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で第23回本格ミステリ大賞《評論・研究部門》を受賞。




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